『ネバーエンディング・ストーリー』本の中の世界で繰り広げられる冒険
西ドイツとアメリカで制作された1984年のファンタジー映画。原作はミヒャエル・エンデの児童向けファンタジー小説『はてしない物語』。その実態は今で言うなろう系。
現代のCG技術と比較すると、どうしてもVFXが古臭く感じる。また、登場人物の少なさや人気の多い場所には行かないなどの理由のため、なんだかスケールの小さい話に思えてしまう。
しかし作品全体の質自体は素晴らしく、着ぐるみで表現されたファンタージェン世界の住人はCGとは別の良さがある。多少の欠点はあれど、今見ても充分楽しめる名作だと思う。
- バスチアン、『ネバーエンディング・ストーリー』と出会う
- 虚無に侵される本の世界・ファンタージェン
- バスチアンとファンタージェンの住人たち
- 着ぐるみとVFXで表現されるファンタージェン
- こぢんまりした印象のストーリー
- いじめっ子たちへの仕返しはスカッとするが……
- バスチアンやアトレーユとファンタージェンへ旅立とう
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バスチアン、『ネバーエンディング・ストーリー』と出会う
主人公の少年・バスチアンは、読書好きないじめられっ子だった。
ある日、バスチアンはいじめっ子たちから逃げるために飛び込んだ本屋で『ネバーエンディング・ストーリー』という本と出会う。店主はその本を「特別だが危険なもの」と言う。
バスチアンはその本を勝手に持ち出してしまうが、それが彼と本の中の世界・ファンタージェンの運命の物語の始まりだった。
虚無に侵される本の世界・ファンタージェン
本作は、バスチアンが『ネバーエンディング・ストーリー』を読み進めるという形で進んでいく。主な舞台は、本の中の世界であるファンタージェンだ。
ファンタージェンは象牙の塔にいる女王によって守られている――はずだった。
しかし、最近では女王が病に伏せっていた。さらに、ファンタージェンを虚無が蝕んでいた。
虚無に呑まれた場所は「何もない場所」になってしまう。虚無のせいで、ファンタージェンに存在していた人々や場所が少しずつなくなっていたのだ。
バスチアンとファンタージェンの住人たち
バスチアンはいきなり万引きという犯罪行為を犯すものの、それでも読書好きな普通の少年だ。『ネバーエンディング・ストーリー』に熱中するあまり、思わずアトレーユにエールを送る姿は微笑ましい。
一応、万引きについてフォローすると、「後で必ず返す」という置き手紙を店主に残している。だからといって許されるわけではないが。
もう1人の主人公であるアトレーユは、女王の病の治療法を探すためにファンタージェンの世界を旅する。
その道中で、愛馬・アルタクスの死、自身をつけ狙う化け物・グボルクなど、様々な困難に直面する。しかしそれらを勇気や心の強さで乗り越え、進んでいく。
他にも、見た目は巨大な石像である岩食い男のロックバイター、口癖の「どうでもいい」が地味にイラッとする巨大亀のモーラなど、ファンタジー世界ならではの幻想的な住人たちが登場する。
自称・幸運のドラゴンだが見た目はめっちゃ胴の長いダックスフントなファルコン(意味はハヤブサ)は、本作の代名詞的キャラだろう。
着ぐるみとVFXで表現されるファンタージェン
映像面に言及すると、やはり今見るとどうしても古臭さを感じてしまう。特に一部のVFXでは不自然さがある。
しかし、現代のCGではないからこその味もある。
先に挙げたロックバイターたちは、今だったらCGで描写されているだろう。だが本作は1984年の映画のため、彼らは着ぐるみで表現されている。
ドラゴンのファルコンや黒い大きな狼っぽいグボルクは、CGではなく着ぐるみだからこそ触ってみたい、なんて思ってしまう。
また、アトレーユがファルコンに乗って空を飛ぶシーンはアトラクションじみていて面白い。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン辺りで、実際にアトラクション化してくれないものか。
こぢんまりした印象のストーリー
ストーリー自体に大きな粗はない。けれど、話の規模の割には妙にこぢんまりとした印象を受ける。
本作はファンタージェン全体の危機に立ち向かう話である。だが、旅に出たアトレーユが出会う人たちの数がかなり少ない。
また、旅の途中で大きな街に立ち寄ることもない。向かう場所も人気のほとんどない僻地ばかりである。
世界規模の物語のはずなのに、これらの理由でこぢんまりとした印象を受ける。そのため、壮大な冒険ファンタジーをイメージしていると肩透かしを食らうかもしれない。
いじめっ子たちへの仕返しはスカッとするが……
エンディングでは、バスチアンが現実の世界にやってきたファルコンの力を借り、いじめっ子たちに仕返しをする。ファルコンにちょっと追いかけさせるだけなのだが、結構スカッとした。
だがしかし、本作のテーマは勇気や希望といった心の強さだと思われる。作中では、ことあるごとにそれを示すようなシーンが盛り込まれている。
だと言うのに、最後の最後でバスチアンが勇気を持っていじめに立ち向かうのではなく、超常的な存在を利用して仕返しをするのだ。確かに仕返しは爽快だった反面、本作のテーマとは合わないのでは?
いじめは、いじめられっ子が勇気を持って立ち向かえば解決する…わけではない。下手に立ち向かうと余計に悪化することもある。現実は非情である。
それでも原作が児童向け作品であることを踏まえると、例えきれいごとだと言われようとテーマである心の強さを最後まで大切にしてほしかったと思う。
バスチアンやアトレーユとファンタージェンへ旅立とう
感情移入のしやすいバスチアンとアトレーユの真っ直ぐな少年2人を主軸に、本の世界のファンタージェンでの冒険や、そこに住まう住人たちとの交流を描いた『ネバーエンディング・ストーリー』。
原作が児童向けの小説だけあって、バスチアンの万引きを除けば問題となるシーンもこれといってなく、子どもも安心して楽しめる。
いじめっ子への仕返しの是非や世界規模の話の割にスケールが小さく感じるなど、気になる点もあるにはある。
しかしそれらも致命的なものではなく、全体としては高品質なファンタジー映画である。安心してファンタージェンの世界に旅立ってほしい。
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