『MAMA』幼い姉妹に執着する悪霊と血の繋がらない母子の愛
幼い姉妹にまとわりつく悪霊の恐怖を描いたホラー映画『MAMA』。
制作総指揮のギレルモ・デル・トロは、『パシフィック・リム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督でもある。2019年には『スケアリーストーリーズ 怖い本』も手掛けた。
本作は、MAMAが自分から姉妹を奪おうとするものに悪意を向けるホラー映画だ。悪霊だけあってMAMAはかなり自分勝手なため、人によっては怒り心頭かも。
しかし、血の繋がらない赤の他人が母娘のようになっていく作品でもある。ホラーはもちろん、家族愛をテーマにした映画が好きな人にもおすすめしたい。
- あらすじ
- 叔父のルーカスが主役と思いきや
- 役立たずなうえに地味にクソ野郎なルーカス
- ジャンプスケアに頼り過ぎだが印象的なホラー演出も
- アナベルとヴィクトリアの不器用な交流
- 死んだ実子より生きている他人の子なクソMAMA
- アナベルとヴィクトリアの交流に注目
あらすじ
イラストレーターのルーカスには兄がいた。5年前、兄のジェフリーは自らの妻を殺した後、娘2人とともに行方をくらましていた。
ルーカスは人を雇って兄たちの捜索を続けていたが、ついに森の奥にある小屋で姪2人を発見する。
ルーカスは姪2人を迎え入れ、恋人のアナベルも含めて4人で暮らし始める。姉妹は野生児と化していたが、姉のヴィクトリアは奇跡的な速度で回復していく。
姉のヴィクトリアと妹のリリーは、5年もの間、2人きりで暮らしていたようだ。どうやって? ヴィクトリアによれば、MAMAも一緒だったらしいが――。
叔父のルーカスが主役と思いきや
姪たちを熱心に捜索していたルーカス。普通なら彼が主人公だと思うが、なんと序盤でフェーアウトする。一応、中盤から復帰するものの、全体的に影が薄い。
ルーカスが探していたのは、ヴィクトリアとリリーの姉妹だ。姉のヴィクトリアは、小屋でMAMAと一緒に暮らしていたと語る。精神科医には解離性同一性障害(二重人格)を疑われるが、果たして?
妹のリリーは、物心付く前に小屋で生活することになった。そのため、野生児としてはヴィクトリアよりも重症である。好物は蛾。
ルーカスの恋人であるアナベルは、バンドマンだがあまり売れていないようだ。不器用ながらも一生懸命に姉妹を世話し、MAMAに立ち向かう真の主役である。呪いの人形ではない。
役立たずなうえに地味にクソ野郎なルーカス
ヴィクトリアたちの叔父であるルーカスは、早い段階でMAMAからの襲撃を受ける。結果、家の2階から転落して病院送りにされてしまう。
そこまでは仕方ない。が、問題なのは、病院送りにされてからである。
他人の子供2人と何とか暮らしているアナベルに対し、祖母との面会を忘れていた件を非難する。
入院中だから仕方ない面はあるとはいえ、実質アナベルに丸投げしておいて、なんだこのクソ野郎。
そういうことは、面会日の前日にアナベルに連絡してお願いするとか、できる範囲でやっておくべきことをちゃんとやってから言えや。
ジャンプスケアに頼り過ぎだが印象的なホラー演出も
ホラー演出は、音でビックリさせるジャンプスケアが多かったように感じた。
ちょっとジャンプスケアに頼り過ぎな気がするが、それ以外の工夫も見られた。しれっと怖いものが画面内に入っていたり、何でもないシーンが実は意味がわかると怖かったりなど。
個人的に印象に残っているのは、真っ暗闇の中で何枚も写真を撮るシーンだ。察しのいい人なら、こう書いただけでもどういう展開が待ち受けているかわかるだろう。
アナベルとヴィクトリアの不器用な交流
ルーカスはMAMAにワンパンKOされ、序盤でフェードアウトしてしまう。ほんまつっかえ。
ルーカスを見捨てられないアナベルは、ヴィクトリアたちとの生活を続ける。アナベルは当初、姉妹に対して少々ぶっきらぼうに振る舞う。けれど、彼女なりに姉妹を気遣い、特にヴィクトリアと不器用ながらも交流を深めていく。
本編ではあちこちにMAMAの影があるため、不穏な雰囲気が続く。そんな中でもアナベルたちが少しずつ距離を縮め、やがて母娘同然になるのだが、丁寧な過程は微笑ましく温かいものだ。
死んだ実子より生きている他人の子なクソMAMA
5年間、小屋でヴィクトリアとリリーの面倒を見ていた存在がいる。それがMAMAだ。MAMAは姉妹に執着し、自身から2人を奪おうとする人間に襲いかかる。
そんなMAMAには生前、生まれたばかりの子どもがいた。しかし、精神病を抱えていたために無理やり引き離されてしまった。追い詰められた彼女は、最終的に子どもを道連れに身を投げてしまう。
この時点で、人によっては「子どもを巻き添えにすんじゃねえ」と憤る人もいるだろう。あるいは自分勝手とは思いつつも、MAMAに共感してしまうかもしれない。
しかし、ヴィクトリアとリリーに目をつけたMAMAは、エンディング直前でとんでもない暴挙をやらかす。このクソアマ、道連れにした赤子の遺骨を投げ捨てやがるのだ。
死んだ実子より生きている他人の子ってか? ガッデム。
アナベルとヴィクトリアの交流に注目
『MAMA』。ビックリ系の演出が多いものの、それ以外の工夫もあるので、ホラーとして十分楽しめると思う。
登場人物については多少、難ありか。無能なルーカスにイラッときたり、MAMAに腹が立ったりするかもしれない。
けれど、アナベルとヴィクトリアがお互いを思い合うようになる過程は丁寧だ。2人の交流に注目して見てほしい。