『トゥルーマン・ショー』全世界から見世物にされる男の選択は?
離島・シーヘブンを舞台に、全世界から見世物にされている青年・トゥルーマンを描いた『トゥルーマン・ショー』。
非常に評価の高い作品で、1998年度(第56回)のゴールデングローブ賞、1999年のヒューゴー賞とサターン賞を受賞している。
序盤は面白みに欠けるものの、トゥルーマンが真相を知ろうとする中盤から面白くなる。根気強く彼の奮闘を見守ってほしい。
- あらすじ
- 島1つが巨大なスタジオ
- 24時間監視されている雑コラ職人なトゥルーマン
- ちょっと面白みに欠ける前半
- トゥルーマンが真実に気づき始めて面白くなる中盤
- コメディじゃなくってホラーだろ
- 諸悪の根源にして番組プロデューサーのクリストフ
- 周りが敵だらけでも外の世界を目指すトゥルーマン
- 強烈な悪意を感じる風刺描写
- トゥルーマンの決断の先に何があるのか
あらすじ
トゥルーマンは離島・シーヘブンで暮らしている保険会社の社員。平凡ながらも充実した毎日を送っていたはずだが、大学時代に知り合った女性・シルヴィアのことが気がかりだった。
そんなトゥルーマンの周りでは、たまに奇妙な出来事が起こる。なぜか空からスポットライトが落っこちてきたり、会いに来てくれたパパが謎の人物たちに連れ去られたり。
違和感のある日常の中、トゥルーマンはついに一念発起する。シルヴィアに会いに行くため、彼女がいるはずのフィジー諸島へ向かうことを決めたのだが――。
島1つが巨大なスタジオ
トゥルーマンはシーヘブンという島で暮らしているが、実はこの島は、トゥルーマンの日常を監視するための巨大なスタジオだ。
何も知らされていないトゥルーマンは、生まれた瞬間からテレビで私生活を24時間監視され続けてきた。何のために? 俳優の演技に飽きた人たちの娯楽のためだ。
ちなみに、彼の生活を垂れ流すドキュメンタリー番組は『トゥルーマン・ショー』という。本作のタイトルでもある。
24時間監視されている雑コラ職人なトゥルーマン
本人も知らぬまま、全世界からスター扱いされているトゥルーマン。彼の生活は生まれてから30年間、街に仕込まれた5000の隠しカメラで撮影されている。
トゥルーマン自身は保険会社のセールスマンだ。自身が監視されていることに気づいた直後は少々おかしな言動をするものの、基本的には陽気で人当たりのいい好青年である。
トゥルーマンは既婚者でメリルという妻がいるものの、大学時代に両想いになりながらも引き裂かれたシルヴィアへの未練タラタラ。雑コラでシルヴィアの顔を作成する始末である。こえーよ!
当然、雑コラ作業もテレビで放映されており、シルヴィア本人も目撃。ドン引きしないどころか、むしろ嬉しそうなシルヴィアにビックリだよ。
ちょっと面白みに欠ける前半
独自の発想と世界観が売りの『トゥルーマン・ショー』だが、序盤はちょっと面白みに欠ける。1998年に劇場公開された作品のため、今から見ると古臭さも否めない。
序盤はトゥルーマンの日常やシルヴィアへの想いなどが描写される。展開はよく言えば丁寧、悪く言えばテンポが悪い。ところどころコメディもあるが、盛り上がりに乏しい印象を受ける。
トゥルーマンが真実に気づき始めて面白くなる中盤
『トゥルーマン・ショー』が面白くなるのは、トゥルーマンが真実に気づき始める中盤からだ。
出勤途中のトゥルーマンは、カーラジオが混線して番組スタッフの無線を傍受してしまう。これをきっかけに、トゥルーマンは自身の周囲に明確な違和感を覚える。
作中番組の『トゥルーマン・ショー』は、トゥルーマンが番組に出演していることを知らないのが売りだ。当然、真実を知ろうとするトゥルーマンの邪魔をする。
様々な方法で疑問を解決しようとするトゥルーマンと、何が何でも阻止したい番組スタッフの攻防は面白く、中にはコメディらしく笑えるものも。
コメディじゃなくってホラーだろ
『トゥルーマン・ショー』は、よくコメディ映画と称される。実際に、本編ではコメディチックな笑えるシーンもある。
例えば、トゥルーマンが夜の浜辺で黄昏れているときに、彼の頭上にだけ雨が振る場面だ。本当にトゥルーマンの頭上にだけ降り、まるでお笑い番組のノリだった。
他にもチラホラと笑えるシーンはあるのだが、コメディというよりホラーな印象を受けた。
作中の『トゥルーマン・ショー』は、たった1人の人間をみんなで騙して見世物にしている。冷静に考えるとかなり悪質な状況で、薄ら寒さを覚えてしまったのだ。
人によっては、嫌悪感すら覚えかねないかもしれない。
諸悪の根源にして番組プロデューサーのクリストフ
当然、そんな番組の責任者は吐き気を催す邪悪だ。諸悪の根源にして番組プロデューサーのクリストフは、「トゥルーマンが真相を知りたいなら止めない」と発言する。だが嘘だ。
明らかにトゥルーマンが真相を知りたがっているのに、全力で邪魔をする。挙げ句、彼が死んでもおかしくない状況を作ってしまう。どう考えてもヤバイやつ!
周りが敵だらけでも外の世界を目指すトゥルーマン
ドキュメンタリー番組という形で見世物にされていることを知ったトゥルーマン。シルヴィアへの想いもあり、彼女のいるフィジー諸島を目指す
島自体が巨大なスタジオのため、自身の家族や友人、隣人も番組出演者である。それゆえ、彼らの目的は番組の継続だ。外を目指すトゥルーマンを島に縛りつけておきたい。
だが、周りが敵だらけの状況でも、トゥルーマンは外の世界を目指すことを諦めない。他人に与えられた安全な箱庭での生活を捨て、自身の力で本物を掴み取ろうとするのだ。
強烈な悪意を感じる風刺描写
『トゥルーマン・ショー』のラストは想像がつくとおり、トゥルーマンが外に踏み出して終わる。非常に感動的であり、実際に映画を見て確かめてほしい。
が、最後の最後で、かなり悪意に満ちた風刺描写があった。
トゥルーマンの決断に涙を流して歓声を挙げた視聴者たち。だが彼らは、ドキュメンタリー番組『トゥルーマン・ショー』が終わると、途端に他のテレビ番組について話し出す。
1人の男の人生をかけた決断すら、消費されて忘れ去られるだけの娯楽として描かれているのだ。
とはいえ、こうやってレビューなんぞを書いている私自身も、ある意味では作中の番組スタッフや視聴者と同レベルかもしれない。トゥルーマンの奮闘を見世物として楽しんでいたのだから。
トゥルーマンの決断の先に何があるのか
コメディ扱いされる映画だが、人によってはそんじょそこらのホラーよりも恐怖を覚えるだろう『トゥルーマン・ショー』。
とはいえ、最終的にはトゥルーマンの奮闘と決断に感動できる作品だ。また、ただ感動するだけでなく、ラストの風刺のように考えさせられる面もある。
ぜひ1度見て、彼のその後に思いを馳せてほしい。