『マジック・マイク』華やかな男性ストリップの世界と裏側の泥臭い現実
華やかな男性ストリップの世界と、裏側にある泥臭い現実を描いた『マジック・マイク』。
主役のマイクを演じたチャニング・テイタムはストリップダンサーの経験があり、彼の実体験が脚本に影響を与えている。そのためか、予告では「実話に基づくサクセスストーリー」だの「夢を叶えた男」だのうたっている。
しかし実際には、男性ストリップの頂点にいたマイクが、様々なトラブルの果てにストリップ業界を去る話である。なんでサクセスストーリー扱いするかなあ?
本作は予告のような明るく前向きな作品ではない。力強さとキレのある性的なダンスを挟みつつ、男性ストリッパーの悩みや没落が丁寧に描写される。意外と社会派な作品なのだ。
- あらすじ
- 男性ストリップ業界に足を踏み入れるアダム
- ステージ裏の泥臭い現実に不安を抱えるマイク
- 落ちぶれるマイクと調子に乗るアダム、対照的な2人
- アダムの姉だがマイクに理解を示すブルック
- 見ごたえはあるが性的なため人を選ぶダンスシーン
- 「確かなもの」を手に入れたマイクにエールを送りたい
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あらすじ
男性ストリップクラブのスター“マジック・マイク”ことマイクは、自身の将来に不安を抱えていた。「確かな人生」を求めるマイクはストリップダンサーとして働きながら、オーダーメイドの家具屋を開くことを夢見ていた。
ある日、マイクは工事現場のバイトでアダムと知り合う。アダムはマイクへのちょっとした借りのために、まさかのストリッパーデビューを果たす。
戸惑いながらもストリップの世界に踏み込んだアダムは、短い期間でマイクと並ぶほどの人気を得る。
一方、マイクは起業のために銀行に融資を申し込むが断られる。さらに、クラブオーナーであるダラスと確執が生じてしまう。
思い描いた理想と思いどおりにならない現実。その狭間で悩み苦しむマイクは何を失い、何を得るのだろうか。
男性ストリップ業界に足を踏み入れるアダム
『マジック・マイク』はタイトルどおり、マイクが主役の物語である。しかし、序盤は一般人だったアダムに焦点が当てられている。視聴者はアダムとともに男性ストリップの世界に足を踏み入れるわけだ。
19歳のアダムはマイクに作った借りのためにストリップクラブに連行されてしまう。最初のうちは細々とした手伝いをするはずだった。
しかし、ストリッパーの1人が酒飲んでバタンキューしてしまい、穴埋めのためにステージに放り出される。
ストリップショーを見ていた当初は引いていたアダム。ステージに上がった直後もためらいがちだったが、自分に浴びせられる黄色い声援に気分をよくする。
こうしてアダムは男性ストリップ業界に足を踏み入るわけだが、アダムの変化は短時間の出来事ながらもわかりやすく描かれている。ドン引きしていたはずのアダムの変わりっぷりには思わず笑ってしまった。
ステージ裏の泥臭い現実に不安を抱えるマイク
中盤からマイクに焦点が当てられる。“マジック・マイク”としてステージ上で女性客の視線を集めるマイク。しかし、30歳のマイクは将来への不安を抱えていた。
クラブには、マイクよりも年上の男性ストリップダンサーもいる。けれど、マイクは家具屋を起業し、「確かな人生」を手にしたかった。
マイクはストリップやバイトで貯めた1万3000ドルを元手に融資を求める。だが、銀行からは断られてしまう。
また、マイクはオーナーのダラスに「共同経営者にしてほしい」と頼んでもいた。しかし、ダラスはのらりくらりとはぐらかす。挙句、ナンバーワンとしてクラブに貢献したマイクを嘲笑する。
ステージでは女性からの絶大な人気を誇るマイク。だが、銀行の話からわかるとおり、社会的な信用はない。それだけでなく、オーナーとの衝突という生々しい話も描かれる。
男性ストリップの世界は酒も女も思いどおりで、一見すれば華々しい。けれど、ステージの裏側にあるのは泥臭い現実なのだ。
落ちぶれるマイクと調子に乗るアダム、対照的な2人
30歳のマイクと19歳のアダムは、対照的に描かれている。
マイクはクラブではナンバーワンのストリップダンサーだ。しかし、起業はできないうえにオーナーからは軽んじられる始末。社会的にはすっかり落ちぶれている。
逆にアダムは、とんとん拍子でクラブの人気者になる。女、酒、ドラッグと望むものを手に入れ、オーナーからの受けもいい。水を得た魚のごとく、生き生きとしている。
ストリップダンサーになったばかりのころ、アダムはマイクに「親友になろう」と言う。
だが、アダムはいろいろとやらかしまくってマイクに迷惑をかけまくる。少しは親友としてマイクの力になろうとは思わないんですかね、このクズは。
マイクはアダムがとんでもないへまをやらかしても手を差し伸べる。アダムの姉ブルックへの義理立てもあったんだろうけど、そこまでしてやる価値ないぞ。
一応、アダムなりに感謝の言葉を述べるが、そこはありがとうじゃないよね。序盤のアダムは初々しく可愛げがあったが、終盤のアダムはヘイトが溜まる。マイクは不憫で応援したくなるし、本当に対照的な2人だなあ。
アダムの姉だがマイクに理解を示すブルック
『マジック・マイク』の重要人物は3人いる。1人目はマイクと対比になるアダム。2人目はマイクと衝突するダラス。最後の1人は、アダムたちとは違った形でマイクに関わるブルックだ。
ブルックはアダムの姉だが、親代わりといったほうがいいかもしれない。定職に就かずぶらぶらしているアダムを気にかけていたのだが、当の本人はいきなりストリップダンサーになってしまう。とんでもないドッキリだ。
身内がストリッパーデビューするというのは、多くの人にとって受け入れがたいことだろう。
ブルックも、かわいい弟をストリッパーにしたマイクに怒りを示す場面がある。だが、それでもマイクと友人として付き合うため、かなり寛容だ。
ブルックはマイクに手厳しい言葉を浴びせることもある。しかしそれは、弟であるアダムを大切にしているからこそだ。
アダム関連でトラブルがなければ、ブルックはマイクとも友人として接し、時に理解を示すこともある。不憫なアダムに親身になってくれる数少ない人物で、本作の良心的存在だ。
見ごたえはあるが性的なため人を選ぶダンスシーン
男性ストリップダンサーの苦悩を描いた『マジック・マイク』。当然、マッチョダンサーによるパフォーマンスも本作の一部だ。
ストリップクラブのステージでは鍛えられた筋肉が躍動する。上半身裸や性的なダンスは当たり前で、Tバックはいた男が引き締まった尻をさらす場面も。
ダンスとは関係ないが、主演のチャニング・テイタムも開幕早々ケツをさらしている。
どうしても卑猥な点に目が行きがちだが、ダンス自体は凝っており見ごたえがある。
毎回ステージ衣装やダンスのテーマが異なり、バク転・バク宙だってする。ストリップ経験のあるチャイニング・テイタムのパフォーマンスはピカイチだ。
男性ストリップの世界がテーマのため、ダンスシーンは絶対に必要だ。とはいえ、やっぱり性的なパフォーマンスのため、人によってはどうしても受け付けないだろう。
「確かなもの」を手に入れたマイクにエールを送りたい
男性ストリップ界の華やかな面とストリップダンサーの悩みを描いた『マジック・マイク』。
性的なために人を選ぶが、筋肉ダンサーたちのパワフルなパフォーマンスは見ごたえがある。マイクの悩みの描写も、序盤から伏線が貼られていて丁寧だ。
ストリップに限らず、体力や年齢が重要な仕事だとマイクのように思い悩む人もいるだろう。上司との人間関係は残念なことによくある問題だし。
起業もうまくいかず、1人静かに男性ストリップの世界を離れるマイクには哀愁が漂う。だからこそ、最後の最後でたった1つの「確かなもの」を手に入れたマイクに、心からのエールを送りたい。なお続編。
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