マンボウ映画レビュー記

Amazon Prime Videoで見られるホラー映画を中心に、適度にネタバレしつつレビューしています。たまにOVAや小説を取り上げることも。ライブドアブログより移行作業中。

『カンフーハッスル』敵の技は琴の音色やカエルごっこ!?達人の闘い!

サッカーとカンフーを組み合わせ、そのぶっ飛び具合が大受けした『少林サッカー』。実写版キャプテン翼

少林サッカー デラックス版 [DVD]

少林サッカー デラックス版 [DVD]

  • 発売日: 2002/11/22
  • メディア: DVD
 

その『少林サッカー』の監督・主演として有名なチャウ・シンチーが次に制作したのが、本作『カンフーハッスル』である。

カンフーハッスル』におけるカンフー描写も中々にぶっ飛んでいる。その一端は映画のポスターからも垣間見え、主演のチャウ・シンチー炎をまといながら宇宙を飛んでいるのだ。

日本での興業収入は前作の半分ほどの17億円。しかし、ゴールデングローブ賞英国アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたり、米国包装映画批評家協会賞を受賞したりと海外での評価が高い。

少林サッカー』やポスターから想像するとおり、本作はかなりコメディ描写の多い作品である。しかし、全体を通してみれば、武術家が正義のために戦う立派な武侠映画だ。

また、最初のうちは笑える描写が多いが、途中からかなり重いシリアス展開に突入する。温度差に風邪引きそう。

コメディ一辺倒を期待していると、中盤からのシリアス展開に戸惑うかもしれない。しかし、ワイヤーアクションとスローモーションを多用した超人カンフーは非常に見ごたえがあるので、アクション好きにはぜひ見てほしい。

 


カンフー・ハッスル - 予告編

 

 

あらすじ

主人公のシンは相棒とともに、豚小屋砦と呼ばれる貧民街の住人にイチャモンをつけ、金を巻き上げようとした。しかし、住人たちから返り討ちにされてしまう。

シンはヤケクソ気味に爆竹を投げつけるが、その爆竹は通りすがりのヤクザ・斧頭会の幹部に命中。当然ヤクザは激昂するが、シンは住民たちに罪をなすりつける。人間のクズ。

斧頭会は豚小屋砦を荒らし、ついには住民の母子にガソリンを浴びせ、火をつけようとする。しかし、住人の一人である人足がそれを阻止する。彼は十二路譚腿(じゅうにろたんたい)と呼ばれるカンフーの達人だった。

豚小屋砦には、人足も含めて3人の達人がいた。彼らの活躍により、斧頭会は退却。喜ぶ住人たちだったが、豚小屋砦の大家夫妻は3人に出ていくように言う。斧頭会の報復を恐れたためだ。

達人3人も同様の危惧をしていたため、豚小屋砦を出ていこうとする。しかし、斧頭会の動きは早く、3人を仕留めるためにすでに刺客を放っていた。

 

シンが一番影薄い?個性的な登場人物たち

主人公のシンはチンピラで、豚小屋砦の貧しい住人相手に恐喝をやるようなクズである。

もともとはいじめを止めようとする正義感の強い少年だったが、「善人は報われない」と悟り、悪人になろうと悪事を働く。が、肝が小さいうえに間の抜けたところがあり、うまくいっていない。

本作の悪である斧頭会。その組長は外道だ。敵対組織の情婦を「女は殺さない」とか言っておきながら、背後からショットガンで射殺したりする。

一応、序盤のナレーションによれば、爆竹騒動が起きるまで貧しい地域には手を出していなかったらしい。

そんな斧頭会に立ち向かうのが3人のカンフーの達人。1人目は無口な人足で、少林拳の一種である十二路譚腿(じゅうにろたんたい)の達人だ。

 2人目はオネエ言葉の仕立て屋のおっさんで、両腕にはめた鉄の輪を武器に戦う洪家鉄線拳(こうかてっせんけん)の使い手。

3人目は粥麺屋の主人で、五郎八卦棍(ごろうはっけこん)の達人であり、棒や槍を自在に操る。

達人たちが住む豚小屋砦の大家夫妻は、昼間から酒を飲んでいるダメ親父と、口やかましいおばちゃんだ。

おばちゃんは斧頭会が出てきたときにコメディ的な足の速さで自宅に引きこもるのだが、これが伏線だと気づけた人はいたのだろうか。

 

豚小屋砦を守るは3人の達人と大家夫妻

序盤で主役のシンがやらかして斧頭会を怒らせ、豚小屋砦はそのとばっちりを食らうことになる。

そこで立ち上がるのが、人足、仕立て屋、粥麺屋の達人3人だ。彼らはカンフーの達人だが、戦うことに疲れて豚小屋砦に身を寄せていたのだ。達人3人が斧頭会の大量の下っ端を相手に戦うシーンは非常に迫力がある。

隣人が優れたカンフーの達人であることを知った彼らは、武芸者としての血が騒ぎ、三つ巴の手合わせをする。

この手合わせのシーン、短いながらもやはりかっこいい。手合わせ後に互いを褒め称え、再会を誓うのも漢の友情的な良さがある。最後の最後で仕立て屋のおっさんがやらかすせいで締まらないが。

達人3人を追い出そうとする大家夫妻は、序盤ではチンケな脇役という感じだ。しかし、話が進むと彼らもカンフーの達人と判明。武術大会で息子が殺されており、復讐は虚しいと語る。

そんな彼らも、とある出来事を機に闘うことを決意する。これ以降はカンフーの達人としての威厳あふれる姿を披露してくれる。夫は柔よく剛を制す太極拳、妻は大声で物理的ダメージを与える獅子の雄叫び殺法の使い手。

あなたが変わる 楊名時太極拳 (DVDブック)

あなたが変わる 楊名時太極拳 (DVDブック)

  • 作者:楊 慧
  • 発売日: 2012/02/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  達人たちと大家夫妻の印象が強いが、逆に主人公のシンは印象が薄い。回想で過去の説明をされるが、それ以外はコメディリリーフ的な立ち位置だ。

終盤でとある事情から武術家として覚醒するのだが、それまでは基本的にしょっぱいチンピラである。シンにもう少し花を持たせてほしかったな。

 

技は琴の音色やカエルごっこ!?斧頭会に雇われた刺客たち

達人3人にいったんは敗れる斧頭会。しかし、ヤクザが面子を潰されて黙っているわけがない。達人3人を潰すため、刺客を雇うのだ。

最初に雇われるのは2人組の箏奏者。琴の音色で闘う古琴波動拳の使い手だ。達人たちと箏奏者2人組の闘いは、アクションも素晴らしいが、琴の美しい音色が非常に印象的だ。

2人組の箏奏者が倒された後で、最終兵器として斧頭会に雇われるのが火雲邪神(かうんじゃしん)だ。

初登場直後は、タンクトップとサンダルを身に着けたカッパハゲのおっさん。どう考えてもただのおっさんである。しかし、その実力は作中でもトップクラス。1対2でも大家夫妻を圧倒するほどである。

反面、人格面では非常に醜悪だ。「自分を殺せる相手を探している」と言う割に、追い詰められると命乞いをする。相手が油断したところで不意打ちを仕掛けるのだ。カンフーの達人としての誇りなんてありゃしない。

そんな火雲邪神の奥の手はカエルごっこである。何を言っているのかわからねーと思うが(以下略)。

真面目に解説すると、崑崙(こんろん)派の蝦蟇拳の使い手だ。カエルのような姿勢から敵に向かって跳躍し、頭突きを食らわる。

この技を使うときは、顎から喉のあたりがカエルのように膨らんでいた。何を言っているのか(以下略)。

 

ワイヤーアクションとスローモーションによる超人カンフー

本作の見所は、やはり達人たちによる超人カンフーだろう。ワイヤーやスローモーションをはじめ、VFXやCGまで使い、非常に力が入っている。また、そういった映像技術に頼りきりではなく、役者陣の殺陣の演技自体も素晴らしい。

アクションシーンはどれも素晴らしい。その中で個人的に特に印象深かったのが、先程も書いた達人たちと箏奏者2人組の闘いだ。

箏奏者が琴の音色を刃と化して飛ばしてくるのだが、このときの演奏が非常にきれいだ。そんな琴の演奏をBGMに、粥麺屋の主人が槍で闘う場面は、一種の演舞を見ているようだった。

強いて難点を挙げるなら、終盤の戦闘シーンでスローモーションと音の加工がやりすぎのように感じた。しかし、これ以外は特に気になる点はなく、見ごたえのあるカンフーアクションに満足した。

 

全体としてはコメディ要素が多いが、途中からシリアス路線

本作は、全編に渡ってコメディ要素が散りばめられている。シンは華麗なリフティングをしておきながら、「サッカーなんてもうやめた!」というメタ発言をかます

豚小屋砦の住人の1人はなぜか常に半ケツで、モブの癖に妙な存在感を発揮する。

また、アニメ・マンガ的な表現も見られる。例えば、シンはバカやらかして毒蛇に唇を噛まれるのだが、尋常でないレベルで唇が腫れ上がる。大家の妻が走るシーンは、VFXで足が高速回転する感じで描かれている。

そんな笑える描写が終始繰り広げられるのだが、ストーリー自体は武侠ものの王道だ。カンフーの達人たちが正義のため、悪である斧頭会やその刺客と闘うことになる。

箏奏者との闘いを皮切りに、雰囲気は一気にシリアスに変貌する。シリアスとコメディの落差が気になる人もいるかもしれない。

 

武侠小説や多くの映画のパロディ

コメディ要素の多い本作だが、パロディ要素も豊富だ。武侠小説だけでなく、洋画のパロディも盛り込まれている。

一部の登場人物の正体は、武侠小説が元ネタだ。例えば、大家の夫は『神鵰剣俠(しんちょうけんきょう)』の主人公・楊過(ようか)である。妻は小龍女と言い、同作のヒロインだ。

神雕剣侠〈1〉忘れがたみ (徳間文庫)

神雕剣侠〈1〉忘れがたみ (徳間文庫)

  • 作者:金 庸
  • 発売日: 2006/06/01
  • メディア: 文庫
 

 『シャイニング』や『羊たちの沈黙』のパロディと思しきシーンもある。探せば他にもいろいろな映画のパロディシーンも。

 

パロディがわからなくても楽しめる超人カンフーアクション

ワイヤーアクションとスローモーション、さらにはVFXまで導入した殺陣やアクションシーンは非常に見応えがある。カンフーの使い手である達人たちや大家夫妻も魅力的だ。

また、前作『少林サッカー』やぶっ飛んだポスターの印象どおり、コメディやパロディ要素も豊富だ。序盤は素直に笑えるシーンが多い。

しかし、作品全体として見ればシリアスな武侠映画である。人によってはシリアスとコメディのバランスや落差が気になるかもしれない。

武侠小説や映画に詳しい人なら、パロディ要素を探すという楽しみ方もできる。また、パロディがわからなくても他の要素で十分楽しめるので、興味がある人は臆せず見て欲しい。俺もパロディネタよくわからんかった。

 

カンフーハッスル (字幕版)

カンフーハッスル (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video