『メン・イン・キャット』猫になったおっさんの奮闘を楽しむコメディ映画
猫になってしまったワンマン社長の奮闘をコミカルに描いた『メン・イン・キャット』。
タイトルの『メン・イン・キャット』は邦題で、名作SFコメディ『メン・イン・ブラック』の露骨なパロディだ。
原題は『Nine Lives』で、“A cat has nine lives.(猫には9つの命がある)”という英語のことわざを元にしている。是・射殺す百頭。
ワンマン社長が猫になったことをきっかけに、会社の乗っ取り劇が開始されたり家族関係を見直したりする。作品全体としては起伏に乏しい印象があるが、緩いコメディ好きなら見てみるのもいいかも。
ただ、作中の猫の扱いから猫好きには勧めづらい。
- あらすじ
- ワンマン社長だが家族への愛情はあるトム
- かわいい猫の見た目とおっさんな中身のギャップ
- 笑えるシーンは散らばっているが起伏に欠ける
- 乗っ取り劇の原因になった会社経営の問題は放置
- 緩いコメディが好きな人向け
あらすじ
主人公トム・ブランドはワンマン経営者。自社株の所有率51%を理由に、気に入らない部署の社員を全員クビにしたり、株式公開を提案する重役たちを黙らせたりとやりたい放題だ。
トムは仕事にかまけてばかりで、娘であるレベッカの欲しいものもわからない。妻のララに「本人に直接聞けばいい」と尻を叩かれたトムは、レベッカに誕生日プレゼントに何がほしいかを尋ねる。レベッカのほしがったものは、トムの嫌いな猫だった。
犬派で猫嫌いなトムだったが、それでもかわいい娘のために、うさんくさい老人が経営するうさんくさいペットショップからうさんくさい猫を購入。しかし、それが悲喜劇の始まりだった。
ワンマン社長だが家族への愛情はあるトム
主人公のトムは、ワンマン社長として会社でやりたい放題している。
こう書くと家庭内での振る舞いもひどそうに思える。事実、娘のレベッカの誕生日プレゼントを忘れかけるし、離婚した前妻との間にできた息子のデヴィッドは社内で冷遇気味だ。
しかし、家族を愛していないわけではなく、レベッカのために猫を買おうとすることを筆頭に、作中でトムから家族への愛情はきちんと描かれる。
デヴィッドについても、本人には伝わらない方法で想っていた。でも、勝手に想っているだけの想いなど、子供に伝わるわけがないだろう!?
かわいい猫の見た目とおっさんな中身のギャップ
邦題の『メン・イン・キャット』というタイトルどおり、本作は猫の体に入ってしまったトムの悪戦苦闘を楽しむ話だ。
中身が人間のおっさんという設定どおり、CGで描かれた猫のトムは、どう見ても人間な動きをすることもある。かわいらしい猫の見た目とおっさん丸出しの中身のギャップが笑いを誘うのだ。
反面、猫好きには微妙か。猫そのものを愛でる映画ではなく、猫になってしまったおっさんの奮闘を楽しむ作品のためだ。
また、猫に対して厳しい人たちも存在する。猫をゴミ捨て用のコンテナに捨てたり、テイザー銃(スタンガンの一種)を向けたりする連中だ。
笑えるシーンは散らばっているが起伏に欠ける
クスっと笑えるシーンやちょっとスカッとするシーンは、それなりに散らばっている。だが、全体としてはちょっと起伏に欠ける印象を受けた。
会社の乗っ取りや家族関係の修復といった見どころもある。登場人物たちの皮肉や毒舌、さらには猫のちょっと下品だけど笑えるシーンもあるにはある。
けれど逆に、盛り上がる場面が少ないのだ。そのため、人によっては退屈に感じてしまうかも。
乗っ取り劇の原因になった会社経営の問題は放置
『メン・イン・キャット』では、会社の乗っ取り劇も展開される。乗っ取りの原因は、トムのワンマン経営による業績悪化なのだが、最終的にこの問題は放置されてしまう。
トムは世界一の高さのタワーを建設することにこだわっている。会社の利益の大部分を、タワー建設に注ぎ込んでいることを示唆するシーンもあるほどだ。
トムに感情移入してしまうため、会社を乗っ取ろうとする部下を悪役認定してしまいがちだ。しかし、トムのわがままともいえるこだわりが経営に大きな負担をかけていたことは、最初からしっかり描写されている。
乗っ取りのやり方は確かに問題があった。だが、持ち株と世界一の高さを誇るタワーに固執するワンマン社長よりは、組織の将来も考えたうえで会社を乗っ取って株式公開をしようとしていた部下のほうがマシな気はするんだよな。
改心したトムなら大丈夫だろうという謎の信頼もあるにはある。けれど、会社の経営が改善した描写も、簡単でいいから入れてほしかった。
緩いコメディが好きな人向け
猫になったおっさんが、家族と向き合ったり会社の乗っ取りと戦ったりする『メン・イン・キャット』。
パッケージにでかでかと猫が出てくるが、作中での猫の扱いを考えると猫好きには勧めにくい。また、全体的に起伏に乏しい印象がある。
しかし、クスっと笑える皮肉や毒舌や、ちょっとスカッとするシーンもある。緩いコメディが好きなら、機会があれば見てもいいと思う。