『沈黙のジェラシー』派手な嫁いびりを期待したら肩透かし?
「孫を産んだら嫁は用済み」という計画を企てていた姑が大暴れするサスペンス『沈黙のジェラシー』。
物語は基本的に妻であるヘレンの視点から描かれるのだが、スタッフロールではマーサの名前が一番に出てくる。つまり、制作スタッフとしては姑であるマーサが主役らしい。
後述する家庭板ネタを嗜んでいると、後半はともかく前半が少々物足りなく感じた。もっと露骨な嫁いびりを見たかったという意味で。
姑候補と最悪の出会いを果たすヘレン
ヘレンは彼氏のジャクソンの実家があるケンタッキー州キルローナンでクリスマスを迎えることにした。ジャクソンの実家は牧場だった。
夜遅くについたため、ジャクソンの母であるマーサはすでに眠っているらしく、バカップルなヘレンたちはイチャコラしつつベッドイン。
翌日、ジャクソンの部屋で目覚めたヘレン。素っ裸のままベッドから出たヘレンはマーサと鉢合わせてしまう。初対面でやらかしてしまうヘレンだが、マーサは愛想よく対応してくれる。ところどころ言葉に棘がある気がするが。
ヘレンはジャクソンやマーサとともに乗馬したり、教会のクリスマス・ミサに参加したりして過ごす。当初は年明け前にニューヨークに帰る予定だったが、結局、キルローナンで年を越すことになった。
マーサが息子のジャクソンにちょっとベタベタしすぎだったり、ジャクソンがマーサをママ呼ばわりしていたり、マーサがヘレンに嫌味や皮肉と受け取れる発言をたまにしたりと、ちょっと気になる点はあった。
だがそれでも、ヘレンとマーサは表面的には穏やかな関係を築き、ヘレンとジャクソンはニューヨークへと帰った。
ニューヨークに帰ったヘレンだが、ある日、妊娠していることが判明する。そのことを聞いたジャクソンはヘレンにプロポーズする。しかし、これがヘレンにとっての悪夢の始まりだった。
家庭板的な嫁姑問題を期待すると肩透かし
いきなり映画の内容からはずれるのだが、家庭板をご存知だろうか。家庭板はネット掲示板である5ちゃんねるの板(カテゴリー)の一つで、名前どおり家庭に関する話題を取り扱った板である。
で、この家庭板で取り扱われている主要なネタの一つが、俗に言う嫁姑問題である。嫁姑の仲が微妙というものから、姑や小姑による嫁いびり、あるいは嫁による姑いびりなど、一口に嫁姑問題と言っても内情は様々である。
何でこんな家庭板の話をするのかと言うと、本作を見る前にあらすじを軽くチェックしたのだが、そのときに「家庭板的な嫁いびりがテーマか!?」とwktkしたためである。
「飯がまずい」「掃除が下手」「孫を産め」みたいなのを期待していたのよ。実際にはそういう作品じゃなかったので、家庭板脳的には物足りなかったけど。
家庭版脳による登場人物紹介
家庭板脳的には物足りないと言いつつ、家庭板的な視点で登場人物を紹介したい。
というわけで、まずはヘレン。嫁である。さらには物語の語り部的ポジションでもある。終盤では探偵ポジションも兼任し、ジャクソンの父の死の真相や、マーサの本性を暴いたりもする。
次にジャクソン。旦那である。吹き替えだとマーサをママと呼んでいるが、マザコンかどうかは評価が分かれそう。ちなみに、亡き父親のことは親父呼びである。あと、エネ夫でもある。
エネ夫とはエネミーと夫をかけ合わせた造語で、妻の敵となっている夫のことを指す。マーサがヘレンに自宅出産させようと医者に根回ししていたことが判明し、病院で出産するつもりだったヘレンが不満を述べるシーンがある。
しかし旦那であるジャクソンは「君の考えすぎ」「ママも君のためを思って」などと発言する。どう考えても妻・ヘレンの敵だ。
そんなエネ夫なジャクソンだが、ぶっちゃけると最終的には覚醒する。ここで言う覚醒とは、エネ夫からの脱却を意味する。
そして真打ちのマーサ。姑である。家庭板的にはクソトメ(クソみたいな姑)である。序盤では、ところどころ引っかかる言葉や振る舞いはあった。
けれど、表面上はヘレンにも優しく、ヘレンの大切なロケットの留め金を修理するという気遣いも見せてくれているのだ。なぜこのときのあなたのままでいてくれないのか。
話が進むごとに違和感のある言動が増え、中盤では言葉巧みに息子夫婦の仲を悪化させる。終盤では本性を現し、出産直後の嫁の殺害まで試みる始末である。
他にも、ジャクソンにとって父方の祖母にあたるアリスがいる。マーサとの仲は悪く、老人ホームに入っているので出番は少な目である。しかし、マーサの本性をヘレンに伝えようとするなど、重要な人物である。
マーサの姑いびりから劇的に動きだす物語
中盤、マーサがとある目的で老人ホームにいるアリスを訪れ、姑いびりをする。これ以前はマーサの悪意が遠回しで物足りなかった。その反動なのか、この姑いびりのシーンは面白く、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!と心の中で叫んだ。
さらに、終盤の陣痛促進剤入りケーキからのマーサの暴走っぷりは満足した。嫁いびりではなくただの計画犯罪だが、マーサの悪役っぷりは見ていて面白かった。
また、今まで家庭板脳的には物足りないと言ってきたが、最終盤だけなら家庭板脳的にも高得点だった。
マーサがヘレンに「息子をたぶらかした」と言うのだが、家庭板的にはテンプレ的なセリフだ。エネ夫だったジャクソンが覚醒し、マーサに啖呵を切るシーンも見応えありだ。
前半はやや物足りないが、後半は面白い
あらすじから嫁いびりをテーマにした作品かと思いきや、実際はそんなことはない本作。つまらないわけではないのだが、前半は少々起伏が薄く物足りなかった。
しかし、姑いびりから始まるマーサの暴れっぷりは中々面白かった。人によってはただただ不快かもしれないが、個人的にはかなり痛快でサイコホラー的な恐怖もあった。
マーサの暴走と破滅に興味のある人は一度見てほしい。