『キャビン』ホラー映画への愛情が詰まったパロディ映画
山奥の小屋(キャビン)を訪れた5人の若者たちを襲う恐怖を描いた『キャビン』。
若者たちが墓から蘇ったゾンビに襲われるという、割とよくあるホラー映画……と思いきや、実際はメタフィクションやパロディを盛り込んだ作品だ。予告を見ればわかるとおり、そういった作品であることを全面的に押し出している。
作品の性質上、海外のホラーやモンスター・パニックなどの映画に慣れ親しんでいる人のほうが楽しめそう。
あらすじ
山奥の小屋に遊びに行く男女5人の若者たちと、彼らを監視する謎の組織。組織は衛星やオーバーテクノロジーである見えない壁すら使い、若者たちを監視・管理しようとする。
一方、5人はそんなことも知らないまま、小屋でどんちゃん騒ぎしていた。しかし突然、地下室の扉が開いたため、何事かと確認する。
地下室は物置として利用されていたのか、映画のフィルム、首飾り、オルゴールなど、様々なものが収納されていた。
メンバーの1人が見つけた日記は、殺人鬼のものだった。書かれていた呪文を読み上げると、小屋近くの墓場からゾンビが這い出てきてしまう。
ホラーらしい序盤
若者5人を監視する謎の組織というイレギュラーはあれど、序盤はいい意味でホラーの定番を踏まえていた。
5人は小屋に向かう前にガソリンスタンドに立ち寄るのだが、そこは給油機のある寂れた民家と言ったほうがいいものだった。『悪魔のいけにえ』かな?
店長は態度の悪い胡散臭いジイさんで、「持ち主がすぐ変わる」などの意味深な発言をする。いかにもこれから何かありますという、ホラーらしい導入だ。
少し物足りない中盤
物語中盤はゾンビとの攻防が主軸となるのだが、ここが少し物足りない。ホラーとしてはそこまで恐怖演出に凝っているわけではないため、怖さが足りないのだ。
また、若者たちのシーンの合間に、前述の組織の描写が挟まれている。こちらはパロディやメタフィクションの色合いが強く、職員たちがホラー映画のお約束に言及する場面も。職員たちはホラー映画を鑑賞する観客でもあるのだ。
けれど、職員たちのやり取りもメタフィクションやパロディとしては物足りない。もうちょい笑えるネタを入れてほしかった。
化け物祭りで笑える終盤
終盤では、若者たちが自分たちを監視している組織に気づく。
この組織の目的は、古きものと呼ばれる存在の封印を維持することだ。封印を維持するためには、5人の若者を化け物に殺させる必要がある。そのために、組織はゾンビ以外にも様々な化け物を管理していた。
しかし、若者たちが組織の施設に侵入したことがきっかけとなり、化け物どもが組織の職員たちを血祭りにする。悪趣味なのは自覚しているが、この血祭りはかなり笑えた。
組織が管理している化け物たちは、非常に種類が豊富だ。中盤で活躍していたゾンビをはじめ、半魚人、巨大蛇、殺人ピエロなど、パロディのオンパレードである。
終盤は化け物たちの元ネタを考えてみると、また面白いかもしれない。
古きものはモンスタークレーマー
本作の元凶である古きものだが、元ネタはクトゥルフだろう。
作中の描写から、古きものがどんな性質を持っているのか考えてみたい。
組織は古きものの封印を維持するために、若者たち5人を生贄に捧げようとした。どうも5人の若者がホラー映画的な展開で死ぬことを好んでいるようだ。
職員たちはホラー映画のお約束や若者たちの死ぬ順番にこだわっていたが、これらを遵守しないと古きものが目を覚ましてしまうらしい。つまり、ベッタベタなお約束を重視している。
また、処女は生き延びてもいいらしい。まさかの処女厨。
生き残り2人の行動がシナリオから外れてしまったことで、最終的に古きものは復活する。この時点で人類滅亡待ったなしなのだとか。シナリオが気に食わないからってなんてことを。
まとめると、古きものはホラー映画ファンで、お約束以外認めない頭の固いモンスタークレーマーということになる。一部のホラー映画ファンへの皮肉だろうか。
制作陣のホラー映画への愛情が詰め込まれている
制作陣のホラー映画への愛情が詰め込まれた『キャビン』。
しかし、中盤はホラーとしてもパロディとしても物足りない出来のため、その愛情がもう少し面白さにつながっていればと思ってしまう。
反面、終盤の化け物祭りは結構面白い。レーティングはR15+なので多少の注意は必要だが、ホラー好きなら一見の価値があるのではないだろうか。
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