マンボウ映画レビュー記

Amazon Prime Videoで見られるホラー映画を中心に、適度にネタバレしつつレビューしています。たまにOVAや小説を取り上げることも。ライブドアブログより移行作業中。

『残穢』読者も傍観者でいられない、怪談と穢れにまつわるホラー小説

映画化もされた、小野不由美氏の小説『残穢』。

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

 

直接的なホラー描写はあるものの、本作は「この話を聞いた者は呪われる」という怖い話ではよくあるネタと神道の穢れの概念を踏まえた、読み手の想像力を掻き立てることで怖がらせるタイプの作品である。

 


映画『残穢【ざんえ】−住んではいけない部屋−』予告編

 

 

あらすじ

作家の<私>は、かつて書いた少女小説のあとがきで読者から怪談を募集していた。最近でもそのことを知った読者から、自身が見聞きした話を手紙で受け取ることがあった。

ある日、読者である久保さんから「部屋の中で畳を箒で掃くような音がする」と手紙をもらう。やがて久保さんは部屋の中で、帯で首を吊る女の霊を見る。音は帯が畳を擦るものだった。

実は、久保さんのマンションで同じような経験をした人物がいた。そのことを知った久保さんは自身に降りかかる心霊現象について調べ始める、というのがあらすじだ。

 

読者の恐怖心を煽る巧みな構成

久保さんを筆頭とした協力者が調べた心霊現象について、<私>が手紙で読んだり話を聞いたりしていくのが基本的な展開だ。その中で、幽霊の姿や声がするといった直接的なホラー描写や、心霊現象のせいで人がおかしくなっていく描写もある。

しかし、本作の一番のポイントは、私たち読者にも異変が起きるのではないかと思わせる巧みな構成だ。

 

怪奇現象をもたらす穢れ

タイトルにもなっている残穢とは、<私>が考えた、祓いの儀式をしても祓い切れずに残った穢れのことだ。残穢に触れた人の一部は、自身も怪奇現象に悩まされることになる。怪奇現象の起きた場所、穢れに触れた人、そして怪談自体が残穢の媒介となりうる。

作中では穢れを完全に祓えるのか、明記されていない。残穢に触れたために身の回りで怪異が起こった人たちが少しずつ精神を侵され、やがて非業の死を迎えた様が淡々と記されているだけだ。ただ、淡々かつ丁寧すぎるせいで、退屈に感じる部分も多いのが難点。

 

恐怖を煽る<私>≒作者という構図

語り手の<私>は少女小説出身で、ホラー小説を書いており、夫も小説家である。これらの設定から、人によってはすぐに<私>のモデルは作者である小野不由美だと気づくだろう。

この<私>≒作者という構図も、本作の恐怖を煽る演出の一つである。

 

読み終えた瞬間から始まる恐怖

本作を読み終えた私たちはこう思う。<私>≒作者ならば、この話は小野不由美氏の実体験なのではないか。もしそうなら、感染力の強い怪談――この『残穢』に触れてしまった私たちにも、何か異変が起こるのではないか。

実際にそれが始まってしまったら、おそらく私たちには為す術がない。私たちにとっては読み終えたその瞬間から残穢に怯える時間が始まるのだ。これこそが本作最大の恐怖だ。

 

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

残穢(ざんえ) (新潮文庫)

 
残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

  • 発売日: 2016/06/09
  • メディア: Prime Video
 

 

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