『プラトーン』オリバー・ストーン監督の実体験を元にした戦争映画
オリバー・ストーン監督のベトナム戦争での実体験を元に、凄惨な戦争の現実を描いた『プラトーン』。
戦場の様子はもちろん、アメリカ兵によるベトナム人への虐待・虐殺などの戦争犯罪などが非常に生々しく描かれている。
本作は非常に評価が高い戦争映画で、第59回アカデミー賞では作品賞など4つの賞を受賞した。他にもゴールデングロープ賞や英国アカデミー賞など、数々の映画賞で受賞・ノミネート。
興行収入の面でも数字を出しており、アメリカ国内だけで制作費の20倍以上の1億3800万ドルを叩き出している。
評価や興行収入からもわかるとおり、作品としては確かに優れている。しかし、いかんせん内容が内容なだけに重苦しい。見終わった後には虚しさすら感じてしまう。一度は見てほしい映画だが、それなりの覚悟が必要だ。
Platoon (1986) - Barnes Crosses the Line Scene (3/10) | Movieclips
- あらすじ
- 命を預け合うはずの隊員たち
- 本当のベトナム戦争を描いた作品
- 対立するエリアスとバーンズが象徴するもの
- ポスターやパッケージにもなったエリアスの最期のポーズ
- 一方的に悪と切り捨てることのできないバーンズ
- 映画では描かれていない、ベトナム帰還兵のその後
- 考えさせられる戦争映画の名作
あらすじ
大学を中退したクリス・テイラーは、使命感や自らの理想のためにベトナム戦争に志願する。しかし、彼の青臭い理想は過酷な戦場という現実にあっさりと叩きのめされ、クリスはベトナムに到着して早々に後悔する。
彼が配属された小隊(プラトーン)には、2人の優秀な軍曹がいた。エリアスとバーンズだ。エリアスは、極限状況下でも人としての思いやりや優しさを持ち続けている人物だ。対するバーンズは、敵対者には容赦しない冷酷さを持っている。性格や方針の違いにより、2人は対立していた。
ある日、クリスたちの小隊はベトナム軍の地下壕を発見。さらに、近くの川沿いの村に北ベトナム軍がいたという連絡を受ける。エリアスと一部の部下を残し、小隊は村へと向かう。
しかし、村の近くで失踪していた隊員の遺体が見つかったために、小隊は激昂。民間人たちに怒りの矛先を向け、放火や虐待、強姦といった犯罪行為を行う。
遅れて合流したエリアスは、バーンズの蛮行を目撃して激怒する。この件を機に、2人の対立は悪化。小隊の士気は低下し、隊は2つに割れてしまう。
命を預け合うはずの隊員たち
主人公のクリス・テイラーは、小隊に配属されたばかりの新人だ。大学を中退し、志願してベトナム戦争に加わる。貧乏人ばかりが国を守る戦争をするのはおかしいと語る理想主義者だった。しかし戦争という現実に叩きのめされる。
そんな彼を気遣うのが、エリアス軍曹だ。軍人としての厳しさはあるが、新人のクリスを気遣う優しさも持ち合わせている。危険な役割を買って出る勇敢さや、戦争犯罪に強い怒りを示す正義感もあり、理想的な上司だろう。戦場でさえなければ。
エリアスと対立するバーンズ軍曹は、小隊の実質的な指揮権を握っている。顔の右側にある傷が目立つ人物だが、そんなものはすぐに気にならなくなる。気性の荒さや冷酷さといった、狂気的な内面のほうが目を引くからだ。
他に印象に残った隊員に、ジュニアと小隊長のウォルフ中尉がいる。
ジュニアは、夜間の歩哨(要は見張り)の最中に居眠りをしておきながら、自分のミスをクリスのせいにするクズだ。終盤でもビビって逃げ出したりする。
小隊長のウォルフ中尉は無能だ。クリスたちの上官だが、バーンズには軽んじられている。作中では、バーンズたちの民間人への暴行・虐殺を見て見ぬ振りをし、指示ミスで砲兵にフレンドリーファイアさせる。よくバーンズに謀殺されなかったな。
本当のベトナム戦争を描いた作品
本作の監督・脚本を担当したのは、ベトナム帰還兵でもあるオリバー・ストーンだ。彼の実体験により、生々しい戦争の現実が描かれている。
その一例が、小隊員による虐殺や強姦といった犯罪行為だ。失踪した仲間の遺体を見た直後は、理想を掲げて志願したクリスですら民間人の足元に銃弾を放っている。
他にも、軍内部で広がっている麻薬や小隊内での衝突、戦場を逃げ出す兵士の姿など、美化されていない現実の戦争が描写されている。
対立するエリアスとバーンズが象徴するもの
クリスたちの小隊は、エリアスとバーンズによって2分されることになる。
エリアスは、多くの軍人が狂気に陥る戦場でも理性を保ち、人間らしい優しさや正義感を持ち続けた。そしてそれゆえに、冷酷非道なバーンズと衝突を繰り返すことになる。最終的に、エリアスはバーンズに撃たれてしまう。
2人の関係は、エンディングでのクリスのモノローグが示すとおり、善と悪の対立構造でもある。エリアスは人の善性、バーンズは悪性の象徴だ。
しかし、クリスはエリアスとバーンズの両方を「父親」とも称している。理想を掲げて志願したクリスですら、ベトナムの民間人に怒りをぶつけたように、人の内面にはどちらもあるのだ。
ポスターやパッケージにもなったエリアスの最期のポーズ
『プラトーン』といえば、エリアスの最期のポーズを思い浮かべる人も多いだろう。ポスターやDVDなどのパッケージにもなっている、膝をついて両腕を掲げるあのポーズだ。コロンビア。
※下記動画は英語音声、日本語字幕なし。該当ポーズは2分35秒あたりから。
Platoon (1986) - The Death of Sgt. Elias Scene (7/10) | Movieclips
対立の果てに、エリアスはバーンズに撃たれてしまう。しかしエリアスは生きており、北ベトナム軍に追われながらもヘリに向かって走る。エリアスを視認したヘリは援護射撃を行うが、エリアスは空に腕を伸ばし後、倒れてしまう。
エリアスの最期は、悲壮なBGMも相まって非常に衝撃的だ。味方のはずだったバーンズに撃たれて地上に取り残された彼は、最期に何を思ったのだろうか。
ちなみにこのポーズ、元ネタがある。兵士が両腕を掲げている写真で、1986年に撮られたものだ。この写真は、2000年に第13回最優秀ミリタリー写真に選ばれている。
一方的に悪と切り捨てることのできないバーンズ
エリアスの死がバーンズのせいだと悟ったクリスは、エリアス派の仲間に敵討ちを持ちかける。
クリスの気持ちはわかる。エリアスは、軍人としても人間としても優れた人だった。そんなエリアスを、バーンズは死に追いやったわけだが、バーンズを一方的に悪と切り捨てることもできないと思う。
エリアスを撃つ前後やエリアスの最期を見た直後の反応には、バーンズの動揺や罪悪感が見える。その後、バーンズはキャンプに戻って酒を飲んでいるが、邪魔者がいなくなったことを喜んでいるというより、酒に逃げているという印象を受けた。薬物で現実逃避することを馬鹿にしながら、酒をあおっていた。
このときにバーンズは、「エリアスが自分に楯突くせいで、小隊の秩序が崩壊する」「そのせいで隊員が死ぬのは許せない」という旨を語る。酒を飲んだときの発言だから、これは本心だと思われる。そして「隊員」には、敵討ちを提案したクリスも含まれている。
バーンズが冷酷非道な面を持っているのは間違いない。民間人への虐待・虐殺は擁護できない。だが、そもそもバーンズがこのような蛮行に走ったのは、失踪した部下が殺されたからだ。部下を思うがゆえの怒りだ。
バーンズは冷酷なだけの人間ではなく、部下思いのよい上官という面もある。バーンズの言い分にも正しい部分はあると思える。その事実が、戦争の過酷さや不条理さを際立たせている。
映画では描かれていない、ベトナム帰還兵のその後
本作は、新人のクリスがベトナムに着任するところから始まり、負傷によってアメリカ本国に戻るところで終わる。理想主義者だったクリスは現実を知り、戦争の真実を語ることを義務と考えるようになる。
ベトナム帰還兵のその後については、本作では描かれていない。しかし、多くの帰還兵が戦争後に過酷な人生を歩むことになる。肉体の負傷による後遺症、PTSDなどの精神障害を抱えることになった人もいる。中には自殺した人もいるという。
さらに追い打ちをかけるように、世間は帰還兵を非難した。当初は帰還を喜んでおきながら、あっさりと手のひらを返すわけだ。
映画では描かれていないが、実際のベトナム帰還兵のその後を考えると、クリスたち帰還兵の未来は明るくない。というか暗い。暗雲漂う未来が待っているわけだが、クリスは自らの義務を果たすことができるのだろうか。
考えさせられる戦争映画の名作
監督オリバー・ストーンの経験を元に、ベトナム戦争の現実を描いた『プラトーン』。
民間人への戦争犯罪、エリアスの最期、バーンズの内面など、あれこれ考えれば考えるほど暗くなってしまう。クリスが生き残れたのは嬉しいが、ベトナム帰還兵のその後を考えると、その嬉しさも萎んでしまう。
本作は確かに面白い。戦争映画の名作ではある。しかし、全体的な雰囲気は重苦しく、気軽に見られる作品ではない。けれど、いろいろと考えさせられるところもあるので、一度は見てほしい。