『ヒューゴの不思議な発明』機械人形から始まる映画にまつわるファンタジー?
駅の時計台で暮らしをしている少年ヒューゴが主人公のファンタジーっぽい映画『ヒューゴの不思議な発明』。
批評家からの評価は高く、第84回アカデミー賞では5部門を受賞した。日本ではヒットし、興行収入が10億円を超えた。
あらすじなどで本作は「ファンタジー」と称されることが多いが、「ネバーエンディングストーリー」とか「ナルニア国物語」のような壮大なファンタジーを期待するとがっかりする。というか、これはファンタジーなのか?
- あらすじ
- わりとクズばかりな登場人物たち
- 実在した映画の魔術師ジョルジュ・メリエス
- ファンタジーでないが、幻想的な雰囲気のある作品
- 和訳の問題なのか、違和感のあるセリフ
- そもそもタイトルがおかしい
- なんだか人に勧めづらいファンタジー風映画
- おすすめ記事
あらすじ
1930年代のパリで、少年ヒューゴは駅の時計台で暮らしていた。
父は火事で亡くなっていたが、博物館から引き取った機械人形と、機械人形について書き記したノートを遺してくれていた。
機械人形を修理するために、おもちゃ屋から商品を盗んだりしていたヒューゴ。それがきっかけで、おもちゃ屋の店主ジョルジュや、彼が引き取った少女イザベルと知り合う。
イザベルの協力もあり、機械人形の修理が終わる。機械人形は動き出し、一枚の絵を描いた。それは、『月世界旅行』というサイレント映画のイラストだった。
わりとクズばかりな登場人物たち
主人公のヒューゴ・カブレは、両親を早くになくした苦労人だ。おじに引き取られるのだが、このおじが飲んだくれのクズである。時計技師のおじはヒューゴに技術を教えると、時計台の管理をヒューゴに押し付けやがった。
また、ヒューゴ自身もデリカシーに欠けた面がある。一度も映画を見たことがないと自虐するイザベルに、映画の話を嬉々として語るのだ。マウンティング。
ヒロインのイザベルは、読書好きで冒険に憧れている。クズではないが、ヒューゴがジョルジュに見つかったらまずい状況を物語の冒険に重ね、「最高ね」と言い出す脳天気なところがある。
イザベルも両親を亡くしており、おもちゃ屋の店主ジョルジュが彼女を引き取った。ジョルジュはイザベルの名付け親でもある。特技は手品で、真の主役。
盗みをしていたヒューゴが悪いとはいえ、ヒューゴの大切なノートを取り上げて燃やすという鬼畜っぷりを序盤に発揮する。イザベルのおかげでノートの焼却は狂言だと判明するが、子ども相手にえげつないことをする爺さんだ。
ヒューゴが暮らす駅には、鉄道公安官のギュスターヴがいる。ドーベルマンのマクシミリアンを連れており、盗みがバレたヒューゴを追っかけて邪魔な通行人を突き飛ばす。
「マクシミリアンはお前の顔が気に食わないらしい」など、子ども相手に陰険な態度で暴言を吐いたことも。
実在した映画の魔術師ジョルジュ・メリエス
おもちゃ屋の店主ジョルジュは、実在した映画の魔術師ジョルジュ・メリエス。かつてサイレント映画を出掛けた映画監督だ。本作では、ヒューゴが大切にしている機械人形の制作者でもある。
作中では、ジョルジュの映画への情熱や、映画から離れた経緯などが語られる。イザベルに映画を禁じていたのも、ジョルジュが抱えていた映画への苦い思いのためだった。
ここまでで読んでわかった人もいるだろうが、本作はヒューゴがファンタジーな冒険をする話ではない。ヒューゴの持つ機械人形をきっかけに、サイレント映画の巨匠ジョルジュにスポットが当たる作品だ。
ファンタジーでないが、幻想的な雰囲気のある作品
本作はファンタジー作品と評されることが多い。だが、魔法のようなわかりやすいファンタジー要素はない。
しかし、演出は凝っており、そのおかげでどことなくファンタジー作品のような幻想感がある。特に、無数の巨大なゼンマイが駆動する時計台の中は、レトロな雰囲気も相まって幻想的な印象を覚えた。
また、物語の大部分は駅構内やジョルジュの家で進み、一般的なイメージの冒険は繰り広げられない。しかし、機械人形の謎やジョルジュの過去を追っていく過程は、ヒューゴたちにとって確かに冒険だったのだと思う。
機械人形がイラストを描きだすシーンや、ジョルジュのサイレント映画の上映会は、見ているこちらもワクワクしたものだ。
和訳の問題なのか、違和感のあるセリフ
和訳の問題なのか不明だが、ところどころセリフに違和感がある。
「機械人形に遺された父さんのメッセージを解き明かしたい」みたいなことをヒューゴが言っていた気がするのだが、ヒューゴの回想の中で、父がメッセージを込めたというようなエピソードはなかった。
実際、父はヒューゴ宛のメッセージを遺してはいなかった。
ヒューゴは終盤で、「どうして父さんが死んだのか謎を解きたい」とも言いだす。しかし、父の死に何らかの陰謀が…というような展開にはならない。
結局、父は詳細不明の火事で死んだということしかわからないのだが、そのままハッピーエンドに突入する。
そもそもタイトルがおかしい
本作のタイトルは『ヒューゴの不思議な発明』だが、これがおかしい。
本作は『ユゴーの不思議な発明(The Invention of Hugo Cabret)』という小説が原作だ。小説だと、ヒューゴが実際に発明(Invention)をするらしい。
しかし、映画では発明のエピソードが端折られてしまった。映画の原題は『HUGO』であり、これなら発明のエピソードが端折られても違和感はない。だというのに、邦題をつけた人がやらかしたわけだ。
なんだか人に勧めづらいファンタジー風映画
父が遺した機械人形をきっかけに、ヒューゴが映画監督ジョルジュを知ることになる『ヒューゴの不思議な発明』。
個人的には嫌いではなく、ワクワクする場面もあったのだが、レビューを書いてみたら妙に否定的になってしまった。
見ているときはそこまで気にならなかったが、改めて思い返してみると、いろいろと気になる点が出てきたのだ。
本作はファンタジーと称されることが多いが、実際には魔法のようなわかりやすいファンタジー要素はない。
ところどころセリフに違和感があるなど、細かい部分で粗もある。個人的には嫌いじゃないんだけど、なんだか人に勧めづらい作品だ。
おすすめ記事