マンボウ映画レビュー記

Amazon Prime Videoで見られるホラー映画を中心に、適度にネタバレしつつレビューしています。たまにOVAや小説を取り上げることも。ライブドアブログより移行作業中。

『クワイエット・プレイス』声を出してはいけない緊張感と家族愛

物音に超反応するモンスターがはびこる世界で、家族愛を描いた『クワイエット・プレイス』。低予算ながらもアメリカ本国では記録的な興行収入を叩き出し、世界的に大ヒットした。

本作の特徴は、音を立ててはいけない緊張感だ。音への恐怖は、全編通して徹底して描かれる。そのため、視聴中に余計な物音を立てないようにしてしまった人もいるだろう。

反面、いろいろとツッコミどころも多い。設定や物語の粗をどこまで許容できるかで、本作への評価は変わるだろう。

 


『クワイエット・プレイス』本予告

 

 

音を立ててはいけない緊張感

本作のモンスターは“何か”と呼ばれている。ゾルディック。

“何か”は人間では聞こえない遠くの物音に反応し、攻撃を仕掛けてくる。そのため、アボット一家は手話でコミュニケーションを行い、音を立てないために靴は履かない。

音を立ててはいけないというシチュエーション自体はよくあるが、それがテーマの1つにまでなっているのはかなり珍しい。

他に思いつく作品といったら、強盗3人組VS盲目で元軍人のヤバいおじいちゃんを描いた『ドント・ブリーズ』くらいだろうか。

ドント・ブリーズ (字幕版)

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  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: Prime Video
 

とある場面では、音楽も登場人物がイヤホンをつけたときだけ流れるという徹底ぶりで、視聴者も疑似体験できる。視聴中、つい音を立てないようにしてしまった人もいるのではないだろうか。

 

“何か”は音に反応するだけではないようだが……

本作に登場するモンスターは、宇宙からやってきたエイリアンだ。作中や公式サイトでは“何か”と呼称されている。

“何か”は盲目なのだが、その代わりに音には非常に敏感だ。人間では知覚できないほど遠くの物音にも反応する。叫び声なんて発したら死亡まっしぐら。

しかも作中描写を見た感じだと、“何か”は単に音に反応するだけでない。コウモリやイルカのように、超音波を発して周囲を感知しているように見える。つまり、近くに“何か”がいるときは動いてもいけない……はず。

だがしかし、“何か”は超音波で近くの人間や動物を感知しているように思えない。“何か”の超音波が補聴器と干渉し、弱点のハウリング音を発生させるという形でしか利用されておらず、ここでも設定面の粗さが目立ってしまった。

 

設定的に妊娠や防音処置に違和感がある

本作では、“何か”が地球に飛来してからと思われる経過日数が表示される。物語が本格的に始まるのは、472日以降。この時点で奥さんは出産間近。というか、473日目で破水する。

逆算すると、“何か”におびえている状況下でナニをしたということが判明する。下手にうめき声やら喘ぎ声やら嬌声やらを出したら、子供たちも一緒にあの世逝きな状況にも関わらずだ。

まあ、性欲は制御しづらいものだから、仕方ない面もあるか。

音に気をつけなければいけない状況で妊娠したのなら、出産時のうめき声や赤ん坊の産声の問題も考慮する必要がある。一応、お父さんなりに対策をしているものの、肝心の防音処置はガバガバ

作中では音に敏感なはずの“何か”はガバガバ判定でスルーしてくれたけど、真面目に考えたらどう考えても無理でしょ。

妊娠に気づいた時点で防音対策にもっと力を入れるか、防音設備のしっかりした場所に移動するべきでは?

 

極限状況下の家族愛

いろいろと書いてきたが、それでも極限状況下での家族愛を描いたストーリーはよかった。

現実でも、コミュニケーション不足による家族のすれ違いはおこるもの。ましてや、音を立ててはいけないという制約があれば、なおさらだ。

だが、そんなときでも家族を思い合う一家の姿は胸を打つものがあった。そしてだからこそ、エンディングは家族愛でしめてほしかった。

 

ある意味台無しのエンディング

本作の特徴は、音を立ててはいけない緊張感と、そんな極限状況下での家族愛の2つだと思う。

だというのに、ある意味エンディングで台無しになった感がある。“何か”の弱点が補聴器のハウリング音だと判明し、これを利用して“何か”を1体片付ける一家。

そこまではいい。問題は、母イヴリンがドヤ顔しながらショットガンをリロードして終わるエンディングだ。「これで勝つる!」ってか?

続編の『クワイエット・プレイス2』は、公式サイトを見る限りバトル要素を前面に押し出しているが、今作はそういう作品じゃないと思っていたんだけど……。

“何か”を撃退できるという希望を示しつつ、生き残れたことを喜ぶというような、家族愛を意識した終わり方がよかったなあ。

 

雑な設定群をどうにかしてほしかった

音を立ててはいけないという緊張感が、最後の最後まで続く『クワイエット・プレイス』。家族愛も描かれており、思わず涙を流してしまう人もいるだろう。

惜しむらくは、やはり雑な設定群。もう少し設定がしっかりしていたら、素直に人に勧められる作品になっていたと思う。

続編の『クワイエット・プレイス2』は、バトル要素を前面に押し出しているようだ。本作の緊張感を期待してはいけなさそうだが、せめて設定に関してはまともになってくれよ。

 

クワイエット・プレイス (字幕版)

クワイエット・プレイス (字幕版)

  • 発売日: 2019/01/09
  • メディア: Prime Video